Richard Mosse | BROKEN SPECTRE
「Deutsche Börse Photography Prize」受賞のアイルランド人フォトグラファー、リチャード・モス(Richard Mosse)の作品集。本作では、アマゾンの熱帯雨林の破壊に警鐘を鳴らすため、作者は写真表現における限界を押し拡げようと試みた。
アマゾンの熱帯雨林の破壊とそれが引き起こす気候変動は、理解するにはあまりに広大で、認識するにはあまりに微細で、見るにはあまりに普通であるように展開されてしまう傾向がある。作者は、これまでで最も野心的な作品で、アマゾンの大規模かつ差し迫った崩壊の規模とその緊急性を表現すべく、目もくらむばかりの写真技術を数々用いている。
本作は、地形学的なものから人間中心的なものまで、多様な生態系の物語を行き来し、人間以外の暴力と生存を慎重に検証する74分間の没入型の映像作品である。作者と制作チームは、アマゾン流域とそこに関係する生態系における破壊、劣化、環境犯罪のさまざまな側面を何年もかけて記録してきている。
本シリーズは様々なスケールによって構成されている。蛍光顕微鏡を用いた不鮮明な画像は、アマゾンの生物群の相互依存的な複雑さを科学的に細かく描写しており、映画のようなモノクロの画像で描く赤外線を用いた風景は、違法採掘、伐採、焼畑、工業型農業、先住民の活動などを追う。
一方、空撮されたマルチスペクトル(多波長)映像は、青々とした熱帯雨林と対照的に何もない広大な土地を鮮明に描き出し、アマゾンの破壊がいかに大規模で組織的であるかを示している。
本書に収録している写真作品は、衛星画像技術を模したマルチスペクトルカメラ、紫外線による植物学的研究、熱に敏感なアナログフィルムが用いられており、圧迫された環境と燃える森そのものによって歪み、斑点が生じ、劣化していく様子を撮影することで、見えていないものを可視化している。これらの実験的なドキュメンタリー作品に付随し、作者は催眠術のように鮮やかな航空地図を制作した。これは、特別に開発されたGIS(地理情報システム)画像技術を使い、自然の衰退の規模と範囲を突き刺すように拡大し色付けしている。
気候変動が我々の時代と地球の未来を決定的にし続ける中、作者は急速に進む破滅を目撃している。昨今の科学的研究によると、アマゾンは転換点に達しようとしており、その段階ではもはや雨を降らすことができず、大量の森林枯死と破壊的レベルの炭素放出を引き起こし、気候変動、生物多様性および地元や国際社会に影響を及ぼすことが予測されている。ヤノマミ族やムンドゥルク族の生き残りをかけた先住民の戦い、ほんの一握りの金のために川全体を汚染し破壊する違法な金鉱夫、国際的な肉や皮の市場で売るための牛用の牧草地を作るべく原生地域を故意に焼き払うブラジル人カウボーイなど、作者は悲劇の人間模様の両側面を描いている。
2018年から2022年にかけて制作された本作は、重大な意味を持つブラジル総選挙を前に刊行された。ジャイール・ボルソナーロが勝利することは、かけがえのないアマゾンの破壊を永久に封印することになるかもしれない。
(ディストリビューターのテキストより)
LOOSE JOINTS / 440ページ / ソフトカバー / 243 x 315 mm / 9781912719433 / 2022年